2023.03.22

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み▶シリーズ第12回

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩みでは、1972年の移動入浴車誕生からデベロが歩み続けた入浴福祉研究の歴史をご紹介いたします。

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今回の全国研修会回顧録は、2001年(平成13年)2月8日(木)・9日(金)に開催しました、第36回全国入浴福祉研修会(東京教室)の

報告特集:医療と訪問入浴サービスの講演内容より取り上げたいと思います。『看護も介護も入浴ケアも[対象者の課題]を解決するとの意

識をもって対応しよう』と題しまして、元財団法人東京都老人総合研究所 看護・ヘルスケア部門主任研究員、鎌田ケイ子氏に、約47年前

に取り組まれた研究内容「地域の寝たきり高齢者の訪問看護」について、入浴ケアの様子も含めてごご講演いただきました。

 

▼報告特集:医療と訪問入浴サービス 講師 鎌田 ケイ子  氏

 

§家庭や地域から放置されていた寝たきり
今から約25前、東京都老人総合研究所へ入所した私が最初に取り組んだ研究が[地域の寝たきり高齢者の訪問看護]でした。
自治体から80余名の住所を教えていただき、一人ずつ訪問することから始め、うち16名については、在宅の寝たきり高齢者を看護婦が訪問して何をすべきか…といった基本的な実践研究をさせていただきました。
当時は、自治体から[寝たきり老人手当]が支給されるぐらいで、何とかお世話らしいサービスを受けている方が数人で、ほとんどの方が保健婦や看護婦の訪問も、ホームヘルパーの派遣もありませんでした。もちろん入浴などできず、寝たきり高齢者は地域と家庭で放置されている状態でした。
そうした時代のなかで、私たちが訪問を始めた女性Aさんは、脳卒中の後遺症で麻痺が残っていて、10年近くもご主人がお世話をしていました。
浴室はあっても入浴が不可能で、ご主人の話では、カラダを清潔にすることから始めたのです。
折りたたみ式のポータブル浴槽を持ち込んで、お風呂場のお湯をバケツで運び入浴させました。10年以上も入浴していないため、浴槽はたちまち垢が浮かぶほどでしたが、本人はかなり気持ちが良かったようです。しかし、バケツでお湯を浴槽に運ぶ作業はキツイ仕事ですから、洗濯機で使用する排水パイプをつないで給湯する工夫をしたことを覚えています。
Bさんも脳卒中の後遺症でしたが、リハビリ制度も整っていない時代でしたから、10年近い寝たきり生活で全身の硬直が進み、座位もできないほどでした。
ところが、この家庭はなんとか入浴させたいと考え、横長の形をした檜づくりの浴槽を特注し、浴室の脇にそれを置いて家族が入浴させていました。これなら、寝たままの状態で入浴できますし、浴槽の頭部両サイドに穴を開けてロープを渡し、そこに頭を乗せる工夫までしていました。当時としては、この方は恵まれていたといえます。
Cさんも右手の麻痺があり、むくみも加わって、指先はグローブのような状態でした。しかも両下肢にも浮腫ができていました。かなり驚いた私は、入院治療を助言したのですが、本人は「病院は嫌だ…とにかく家で暮らしたい」というのです。
本人の要望を受け入れることにしましたが、むろんそうした状態では入浴もできませんでしたから、やはり褥瘡ができていました。
家族は、1週間に1度は二人がかりで清拭をしたり、寝床の通気性を確保するため、蚊帳の布をシーツの下に敷くなどの工夫をされていたのが印象的でした。
20余年前の在宅ケアとは、こんな状況でしたが、私たちは実践研究を通して、訪問看護の効果を世に問えた、と自負しています。
その後、老人保健法が改正されたり、訪問看護ステーションの整備も始まり、当時とは比較にならないほど在宅ケアは充実に向かってきたと思います。
§全身が観察できる入浴介護のメリット
日本人の入浴習慣に特徴的なのは、[浴槽に入る]ことです。この点は、シャワーが一般的な欧米とはかなり事情が異なります。
入浴の効果には、①新陳代謝の向上や血液循環の促進、②皮膚の清潔保持、③心理的爽快感、などがあります。なかでも、入浴で心理的爽快感を得たい、という欲求は日本人はとくに強いようです。誰もが入浴すると生き返った気分となり、これが訪問入浴サービスの需要の大きな要因になっているのではないでしょうか。
また、入浴介護の効果にはこの他、④褥瘡予防、⑤運動機能訓練、⑥皮膚疾患などの早期発見、といったメリットがあります。後ほど紹介しますが、入浴は褥瘡の予防や回復に大きな効果を発揮しますし、硬直した関節を動かしやすくするには、入浴による温熱作用が適しています。
一般的な看護や介護では、意外に対象者の全身を観察する機会がないのですが、入浴では文字通り丸裸になりますから、健康状態のバロメーターともいえる皮膚全体を診ることができるのです。この意義はかなり大きなものがあります。
とはいえ、入浴にはデメリットも少なくありません。
入浴の仕方によっては、心身ともに疲れてしまったり消耗することもあります。のぼせて気分が悪くなる場合もあるようです。湯冷めをして体調を崩し、風邪をひくこともありえます。
浴槽の床で滑ったり、浴槽内で溺れたり、高温の湯で火傷をしたり、あるいはガス中毒になるかも知れません。間違った入浴方法では、脳卒中や心臓発作も起きます。福祉施設のように集団で入浴する浴槽では、衛生に注意しませんと、感染という問題も発生しかねません。
常に[安全]ということを念頭に置きませんと、事故が発生しやすいのが入浴なのです。

資料:入浴福祉研究第34号 2001年(平成13年)6月1日発行 掲載記事p.60-62より引用・抜粋

 

 

さて、訪問入浴介護を利用される方は要介護度が高いですので入浴サービスを実施するにあたり注意が必要です。

ここで、訪問入浴介護のご利用者様に入浴サービスを提供する際に重要なことについて3点、また入浴利用者の健康状態の把握

して健康状態の観察項目についてポイントをご紹介いたします。

 

①居室の温度管理

冬場の冷えた部屋は血圧を上昇させ、さらに浴槽の熱いお湯が一段と血圧を上げるため、心臓に大きな負担がかかります。急激な血圧変動を避けるためには、入浴を行う居室と湯温の温度差がないように、居室の温度管理が重要です。

②的確な見守り

訪問入浴介護サービスにおいては、入浴前の血圧や体温等のバイタルチェックで、ご利用者様の健康状態を把握し、入浴の可否判断をした上で、適正な湯温・入浴時間・入浴方法の設定や入浴前後の水分補給等を行うことが重要です。また、いくら身体への負担が少ない入浴方法であっても、重度の方の場合は特に負担がかかりますので入浴中・入浴後も体調の確認が重要であり、気分が悪くなった時は浴槽から出て休んでいただくことが必要になってきます。加えて、高血圧気味のご利用者の場合、狭心症や心筋梗塞は、少しの血圧の変動等が引き金となって起こり得ますので、より注意が必要です。

③適正な湯温の設定

42℃以上の熱いお湯は、一時的に血圧を上昇させるほか、血液の凝固により心筋梗塞を起こしやすくします。高温浴(42℃以上)は、眠気覚ましには効果的ですが、高齢者や要介護者にとっては身体への負担が大きく、事故に繋がりやすいと言えます。ご利用者様の健康状態に合わせた、適正な湯温の設定をすることが重要です。

 

 

★入浴利用者の健康状態の把握

 看護職は、入浴直前に必ず健康状態について表2-1-7「健康状態の観察項目」に掲げる内容について確認を行います。この際、

    利用者の健康状態は、その時の状況に左右されることを十分に理解し、測定した数値だけで判断することは避け、総合的な判断を

    行うようにしなければなりません。

 

出典:一番ケ瀬康子監、デベロ老人福祉研究所・日本入浴福祉研究会編『訪問入浴介護の理論と実践』-一橋出版、2000年、p.129より引用・抜粋

   ※[バイタルサインの観察と評価]についてはシリーズ第11回をご参照ください。

 

 

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訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を把握する

とはもちろん、性格や考え方を理解することは生産性とサービスの質の向上のために大変重要です。

 

 

▶訪問入浴介護とは

 

在宅において、自力で入浴が困難な方を介助し入浴の機会を提供するものです。

入浴車により訪問し、簡易浴槽を居宅に持ち込み、入浴介護に従事する専門スタッフ3名以上がその

サービス実施にあたります。そのうちの1名以上が看護職員であり、入浴サービスの前後にご利用者

の健康観察を行う安全で快適なサービスです。

 

★入浴車による訪問入浴介護サービスは、介護保険制度における在宅サービスの一つです。

 

▼訪問入浴サービスご案内(動画)

 

➡訪問入浴介護のご案内ページへ