2023.12.07

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み▶シリーズ第21回

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩みでは、1972年の移動入浴車誕生からデベロが歩み続けた入浴福祉研究の歴史をご紹介いたします。

※タイトルの下にありますタグ【移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み】をクリックしていただくと記事の一覧がご覧いただけます。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

厚生労働省は、2022年(令和4年)国民生活基礎調査の中で、「現在の要介護度別にみた介護が必要になった主な原因(上位3位)」を

表しております。第1位は「認知症」で16.6%、次いで「脳血管疾患(脳卒中)」16.1%、「骨折・転倒」13.9%の順となっておりま

す。特に「認知症」のご利用者の入浴介助においては、自己防衛の行動等強い拒否を示される方に、心を砕いておられる事と存じます。

今回は、佐藤眞一先生(当時明治学院大学助教授)が、2004年(平成16年)2月26・27日開催の第39回全国入浴福祉研修会(宮城県仙台

市)にて、認知症高齢者を介護する心得として「問題行動の背景や原因探りながら認知症高齢者を温かくお世話する」と題し、ご講義い

ただい内容から抜粋してご紹介させていだきます。

 

▼佐藤 眞一先生の講演

 

§時間と場所の認知に障害が…§

最近、これからさらに増加するとされる認知症高齢者の問題が、にわかにクローズアップされてきました。

すでに、脳に何らかの障害があって認知症状のある方は、65歳以上の全人口の約7%、170万人もいるといわれ、特別養護老人ホームで約8割の入居者に認知症状がある、との調査結果もあるくらいです。

在宅で介護を受けている方でもおよそ半数は何らかの認知症状にあるはずですし、元気に長生きしてきても100歳以上の長寿者の少なくとも5割は認知症の症状が見られます。

そうした認知状態にある高齢者を介護する場合、どんな点に注意したらいいのでしょう。それを理解するためには、認知症の高齢者の気持ちを察することが大切になります。

認知症の大きな特徴としてまずあげられるのが、認知障害です。記銘力と見当識に障害が生じているため、情報が入ってきても正しく処理できません。

私たちが行動をしていくうえで不可欠なのが、時間と空間に対する適切で素早い認識と判断です。しかし、認知症になると、時間と空間(場所)の認識に歪みが生じていて、現実の認識ができなくなるのです。

いま何時なのか?朝なのか?昼なのか?ここはいったい何処なのか?などがわからなくなります。

現実逃避に混乱が生じているため、不安状態が慢性的にもなっています。落ち着いているように見えても、不安が潜在しています。

記憶障害も生じています。私たちは何度も会った人なら、たとえ似たような顔でも、微細な特徴を即座に識別できます。認知症の方にはこれができなくなります。誰だか思い出せなくなるのです。

新しいモノゴトは覚えられず、すぐに忘れてしまいます。これを順向性健忘と呼んでいて、昔のコトは忘れてしまうことを逆行性健忘といいます。

とりわけ問題なのが、時間と場所を相互に関係させて判断できない点です。

もし私たちが目隠しをされてどこか未知の世界に連れていかれた、としましょう。

そんな時の私たちは、まず時間を知ろうとします。そして、ここは何処なのか?知り合いはいないのか?いなければ、手掛かりはないのか?と探して歩き回り、他人に訊ねたりするはずです。

しかし、認知症の方はこうした行動が適切にできないため、頭は混乱して、ただただ歩き回るのです。これが俗にいう〔徘徊〕です。

 

§認知症高齢者の行動障害とは§

認知症高齢者の異常行動は、脳の器質的損傷に伴うものと、状況が誘因となって現れる異常行動に分けることができます。状況が誘因になっている場合は、その改善に努力をしていきます。

脳の器質的損傷が原因となる異常行動には、①意識障害、②幻覚・妄想、③感覚・感情・人格障害、といった具合に、背景になっているものがあります。

意識障害が背景にある場合は、せん妄…不眠…興奮…徘徊…奇声…まとまりのない行動…などが現れます。

幻覚・妄想が背景の場合は、幻視、幻聴被害妄想、嫉妬妄想、敵意、攻撃、興奮などが現れます。

感覚・感情・人格障害では、乱暴…ひねくれ…嫌がらせ…収集…拒否…虚言…拒食…過食…異食…弄便…自傷行為…性的異常などです。

 

§問題の所在と要因を突き詰める§

 以上のように、認知症高齢者の行動障害は実にさまざまですが、こうした高齢者の介護をしていて、それが困難になった場合、問題点を検討し、その原因に迫ることが重要です。

例えば、入浴介護を受けようとしない認知症高齢者がいたとしましょう。

その方は、なぜ入浴を拒否するのか?入浴するということがわかっていないのではないか?と考えていきます。

徘徊ばかりしている高齢者がいたとします。

その方は、なぜ徘徊するのか?神経に原因がありジッとしていられないのか?多動性障害なのか?クスリが原因で意識が混濁しているのか?何か欲求不満があって解決方法を探すために歩いているのか?などなど、多方面から検討してみるのです。

認知症高齢者のいわゆる〔問題行動〕を考察するポイントとしては、①身体的問題、②精神的問題、③環境的問題、④生育歴や性格などの個人的問題、といった四つがあることを銘記しておいてください。介護者には無意味な〔問題行動〕と映るとはいえ、必ず意味や原因が隠されているものです。

身体的問題には、病気…中枢や抹消の神経障害…骨折…薬…老化…などがあります。

精神的問題は、鬱…神経症…不安…恐怖…欲求不満…などです。

生活環境上の問題としては、転居…施設入所…対人関係…居室…食事…行事…などが考えられます。

個人的条件には、生育歴…性格…感情傾向…対人態度…対人的スキル…などです。

 

こうした四つの視点で観察しながら、問題の所在を突き詰め、原因に迫って対策を検討するのです。

いつもシクシク泣いてばかりいる高齢者がいたとしましょう。

その原因は痛みであり、さらには痛みからくる心細さと恐怖が基底にある、わかりましたら、まずその痛みを取り除いてあげましょう。

入浴を拒絶する認知症の高齢者は少なくありません。そうした方には、何故なのか?お湯が怖いのか?裸になると衣服や貴重品が盗まれると考えているためなのか?よく観察し、言葉も交わすなかで、さまざまな原因が考えられるに違いありません。

それらをひとつひとつ解決することで、心の変化が現れてくるはずです。そして、この心の変化も、しっかりと見極めたいものです。

入浴で裸になるということは、まったくの無防備な状態になるわけです。しかも、裸を他人に触れられます。

入浴拒否は自己防衛の行動でもあることをまず理解し、なぜ自己防衛に出るのか?入浴の意味がわからなくなっているために拒否反応を起こしているのか?なぜ他人に裸を触られるのを嫌がるのか?それを乗り越えるためにはどうすればいいのか?などを常に考えるのです。そうするなかで、信頼関係が築かれていくはずです。

いずれにしても、異常行動に対処するためには、その背景を見きわめる必要があり、常に何故か?を考えながら接してください。

 

 

資料:入浴福祉研究第37号 2004年(平成16年)9月1日発行 掲載記事p.49-51より引用

※入浴福祉研究第37号上記ページ内において、「痴呆症」表記を「認知症」に変えさせていただきました。

 

————————————————————————————————————————————————————————————————————————————–

訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を把握する

とはもちろん、性格や考え方を理解することは生産性とサービスの質の向上のために大変重要です。

 

 

▶訪問入浴介護とは

 

在宅において、自力で入浴が困難な方を介助し入浴の機会を提供するものです。

入浴車により訪問し、簡易浴槽を居宅に持ち込み、入浴介護に従事する専門スタッフ3名以上がその

サービス実施にあたります。そのうちの1名以上が看護職員であり、入浴サービスの前後にご利用者

の健康観察を行う安全で快適なサービスです。

 

★入浴車による訪問入浴介護サービスは、介護保険制度における在宅サービスの一つです。

 

▼訪問入浴サービスご案内(動画)

 

➡訪問入浴介護のご案内ページへ