2023.10.24

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み▶シリーズ第20回

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩みでは、1972年の移動入浴車誕生からデベロが歩み続けた入浴福祉研究の歴史をご紹介いたします。

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★医学博士 西三郎先生の回顧録全6回シリーズ【最終回】
第15回からのシリーズ「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」では、1981年日本入浴福祉研究会発足時に研究会を構成している
メンバーで理事を務められた、医学博士の西三郎先生について、全国入浴福祉研修会の講義内容等、全6回シリーズで取り上げており
ます。入浴福祉の広まりにつれ、全国入浴福祉研修会も医療・社会福祉といったより高い専門性が求められていきました。厚生省(現・
厚生労働省)をはじめとし、研究機関、大学などからもご賛同いただき、著名な先生方にご参画をいただきました。西三郎先生は医学
博士、元国立公衆衛生院衛生行政学部衛生行政室長で、1980年に開催されました「第9回全国入浴福祉研修会」より先生の講義が始ま
りました。今回は、全6回シリーズの最終回、1992年(平成4年)9月21・22日に秋田では初めて、秋田県秋田市のフォーラムアキタ
(秋田県労働会館)で開催されたました「第28回全国入浴福祉研修会」において、『入浴の可否判断ー医師の視点・看護の視点ー』
と題してご講義いただきました内容よりご紹介いたします。

 

▼西 三郎先生  

      

 

第28回全国入浴福祉研修会(平成4年9月21・22日実施 於「秋田県労働会館(秋田県秋田市)」)の医学博士・前瑞穂短期大学

衛生学教授の西三郎氏の講義「介護入浴の可否判断ー医師の視点・看護の視点ー」より。

 

★対象者は「患者」である

入浴は、身体を清潔にして、心身の疲れを癒すプラスの効果がある反面、その仕方によっては、身体にかなりの負担がかかり、マイナスの効果も生じて、不測の事態を招くこともある。高齢者が温泉へ行き、長時間も高温浴をして血液粘度を高めてしまい、脳梗塞を起こすのは珍しくない。入浴には、その他の物理的事故や感染の問題も付きまとう。

足し算では、プラスが大きければプラスになり、マイナスが大きいときはマイナスである。しかし、掛け算になると、プラスやマイナスの大きさに関係なく、マイナスを掛けるとマイナスになってしまう。入浴介護は、このマイナスの掛け算になる恐れがあること、つまり、せっかくの入浴介護が〔アダになる場合もある〕ことを知っておきたい。

私たち健康人にとっての入浴は、食べる・排泄するといったことと同様に、日常の生活行為になっている。しかも、誰にも相談せず、自分で、お風呂に入るかどうしようかを決めている。熱がある…風邪気味だから…と体調がすぐれないときは、自分で入浴を避ける。

〔寝たきり〕ということは、もともと体調が正常でなかったり、障害をもっていることになる。そのため、生活をする前提として、常に健康状態を把握しておく必要がある。体調の悪い人の健康状態を把握しておく必要がある。体調の悪い人の健康状態を把握するのは、医師の役目である。

しかも、そうした寝たきり高齢者にとっての入浴は、月に一度とか数回の非日常的な行為である。よって、寝たきり者の入浴介護にあたっては、適切な指示を医師にあおぐことが必要になる。

★対象者によく説明する

いま医学界では、〔インフォームドコンセント〕が盛んに議論されている。医師は診療にあたり、患者の自己決定権を尊重し、患者が適正な判断ができるよう、病気や治療方法の正しい説明と情報提供を十分に行い、患者の同意と納得を得てから治療にあたるべきである、との考えだ。

アメリカの医学関係者が日本を視察すると、「日本の患者は医者に何も訊かず、黙って薬をもらっている」ことにたいへん驚く。この〔インフォームドコンセント〕は国際的にも大きな流れになってきたため、日本も医療法を改正して、それを盛り込む動きが出始めてきた。

〔インフォームドコンセント〕が、法律的に整備されると、本人が「手術は嫌だ」と主張しているのに、医師が勝手に手術をしたら罪になる。そうした場合は、「手術をすることが、あたなの命を救う」といったことを、医師は患者にしっかりと説明し、納得してもらう必要があるわけだ。

寝たきり高齢者も入浴するのは本人であり、〔インフォームドコンセント〕の自己決定権の尊重の立場からいえば、「入浴したい」「入浴したくない」「入浴できる」「入浴できない」は、原則としては本人が判断することとなる。ところが前述したように、寝たきり高齢者は体調が正常ではないため、入浴によって不測の事態が発生するかも知れない。

それを防ぐためには、本人の自己決定権を尊重しながら、本人の健康状態と入浴についての正しい情報提供がされなければならないわけである。その情報を提供するのが、医師の努めである。

つまり、個々の入浴対象者に対して、「入浴はしたいでしょうか、これこれこういう状態だから、入浴は当面避けてください」「このような条件を守るなら、入浴してもかまいません」「従来と同様な方法で入浴してもいいでしょう」とか、さらに、「入浴が嫌だといっても、入浴した方があなたの健康回復には好ましいのですよ」といった説明である。

そうした入浴介護業務の基本的な進め方を守らず、医師が「健康がおもわしくないため、入浴は危険である」と判断した対象者を、専門の介護者が入浴させ、事故が起きた場合、法律的にどうなるか。業務上過失傷害致死罪に問われることもある。

「死んでもいいから・・・」と、家族から入浴介護をせがまれることも珍しくない。入浴介護者が、危険を承知していながらそれを受け入れて、入浴を「強行」したとする。そして、事故が起きた。これも、入浴介護者は過失傷害致死罪に問われる恐れがある。

医師の指示を受けること自体を嫌ったり、指示を受けてもそれを守らない患者は少なくない。しかし、医師の診察や医学的な指示を本人が拒絶し、医学的な管理下に入らないことを選択するのは、基本的には認められている。〔診察を受ける・受けない〕〔指示に従う・従わない〕は、本人の自由意思だからである。

では、そうした医学的な管理下に入らないことを選択している対象者が「入浴介護は受けたい」としたとき、その対応はどうしたらいいのだろう。

本人が医師の受診を拒否していることを理由に、介護福祉の実施団体は、入浴介護の提供を拒否することができる。

★医師の責任と介護者の責務

医療行為は、医師だけに許される〔特権〕である代わりに、医師には、〔応需義務〕といって、診療の依頼を受けたときには、それに応じる義務がある。また、診療拒否の意思が明示されない限り、〔生命の救助義務〕も負っている。

一方、看護婦は、厚生大臣の免許を受けて、「傷病者等にたいする療養上の世話、または、医師の指示を受けての診療の補助を業する者」と定められている。看護婦でなければ、こうしたことを業としてはならない取り決めもある。

その看護婦による「診療の補助行為」は、医師の指示が前提になっていて、「報告」の義務もあり、患者の異常を発見した場合は、医師の受診を勧奨励する役目もある。実際、病院でも、患者の病状の観察は、ほとんど看護婦に頼っているのが現実だ。

とくに高齢者は、肺炎になっても発熱しないなど、体調変化の症状が外に現れにくい。「元気ですか?」と訊いたら、「元気です」と答えたから、「その人は元気だ」とはいいきれないのが高齢者である。したがって、高齢者のお世話をする場合、この観察力がたいへん需要になり、介護者の役割がそれだけ大きいといえよう。

入浴が身体に与える悪影響には、過度の水圧による物理的な影響、温度刺激の過多による循環器系・呼吸器系・内分泌系・神経系・その他の機能への影響などが考えられるほか、細菌感染や障害事故の危険も内在している。

いずれも入浴中に発生するとは限らず、時間が経過して発現することもあり得る。脳卒中などの温泉事故は、いい気分になって寝込んでいる夜中に起きることが多い。

しかし、そうした危険な側面もある入浴だが、医学的にみて、入浴することで心身の改善が予想できる場合、医師は、対象者に入浴をすすめる。反対に、危険が予知されるときは、当然、入浴を回避するよう指示する。ある程度の危険が予知されても、入浴が必要不可欠なときは、医師の監視の下で入浴したり、細かな指示をして入浴させる。

★入浴の可否判断をする義務

では、訪問入浴介護をしていく際の可否判断業務では、どのような注意が必要だろうか。

まず、①医学的な管理下にある寝たきり患者の場合である。

医師の監視が必要な対象者の入浴も一つの診療行為と考えてほしい。そのため、入浴は、医師の可否判断と入浴方法の指示に基づいて実行すべきである。

こうした患者を入浴介護するとき、非常に大切なのは、「診断書」に基づいて実行するのではなく、あくまで「入浴に関する指示書」に従って行うことである。

この点がまた徹底されていないようだが、診断書では、その人の一般的健康状態や病気のことしかわからない。しかも、診断書は、診断をしたその日その時の結果が書かれているに過ぎない。だから、あくまで、その対象者の容体からみて、「入浴についてはどうなのか」の指示をもらうことが必要なのだ。

当然、その対象者の入浴に関する指示も、その日その時の、医師が判断したものである。日時によって対象者の状態は、かなり変わる。

そこで、保健婦・看護婦あるいは、医師の指示により寝たきり高齢者を観察できる能力のある者は、容体の変化や入浴による危険を、発見する義務もある。

もしそれを怠って、事故が発生した場合、医学や入浴に関する知識や技術があり、しかも、入浴による危険を予知したのに…危険が予知できたはずなのに…として、その専門家の罪は重くなるだろう。

こうしたことが起きないよう、個別のケースごとに、入浴前・入浴中・入浴後の観察記録を作成して、変化を把握するために資料にしたり、医師がより的確な判断をくだせるよう、それを報告することだ。

つぎに、②医学的な管理下にない寝たきりの場合ではどうだろう。

家族のみで、家庭の浴室や簡易浴槽で「入浴介助」をしていて、事故を起こしたとしよう。その場合は、家族に医学や入浴に関する知識がなければ、その入浴介助行為に過失はなかったとされ、違法性は問われない。専門家ではないから、危険が予知できなくても仕方がなかった、ということになるわけだ。

むろん、ふだんに比べて当人の容体がかなりおかしいのに「入浴介助」を実施した場合は、たとえ家族でも、過失責任や違法性が問われることもある。

では、③自治体・社会福祉協議会・施設・ボランティア・企業・そのほか福祉団体等が医療機関を介さずに、家族と本人から入浴介護の要請を受けた場合はどうだろうか。これが、全国的に行われている〔福祉としての入浴事業〕の平均的スタイルである。

この際に注意すべきことは、前述したように、対象者は健康上の何らかの問題を有しているため、入浴によって不測の事態が生じるかも知れないということだ。そのため、医師にまず、その対象者の健康状態を判断してもらい、その指示にしたがって事業体、実施団体が業務を行うのが原則となる。また、本人に、自分の健康状態と入浴に関する情報を正しく伝える必要もあり、医学的な管理下にある患者の入浴と同じと考えてよい。

要請された当初は、医療機関が介在していなくとも、結果的には医師が介在すべき対象者だから、入浴介護を実施する団体は保健婦や看護師、もしくは所定の医学教育を受けて、患者と接してきた入浴介護者が参加する必要が生じるわけである。

★医師に結果を報告して連携を

保健婦や看護婦、もしくは所定の教育や訓練を受けた入浴介護者は、医師の指示を受け、それに従うことができる一方、医師は十分で分かりやすい説明をして指示をしなければならない。そうした指示が適切になされるためにも、入浴介護者は、一人ひとり症状が違う対象者の観察記録を作成して、定期的に医師に報告していただきたいものである。

対象者の氏名・一般状態・病名、そして入浴の指示内容と入浴の結果などをB5程度の用紙に簡潔に記し、主治医に届けることをぜひ実行していただきたい。

そして、観察結果から、いつもの体温や血圧、脈拍とは違う・・・と疑問を抱いたら、新たに医師の指示を受けることである。入浴できる嬉しさのあまり、緊張したり、興奮する対象者もいるはずだから、その点をしっかり見きわめることも大切だ。体調の変化によって生じているサインなのか、そのときだけの変化なのか、新たに医師の指示を受けるべきか否か、といった判断をする技術も入浴介護者は習得する必要があるわけだ。

しかし、〔医師の指示〕という原則論を強調しても、入浴についてはまだまだ科学的・医学的に解明されていないことがあり、入浴の可否判断は医師によってまちまちだろう。一人の対象者をめぐって、医師とベテラン看護婦の判断に相違が生じることがある。入浴に関する指示らしきものができない医師もたくさんいる。それらしく指示しても、根拠があいまいで、勘と経験で判断している医師も多い。

しかし、ここ最近、入浴介護が急速に普及するにつれて、医師も入浴のことを勉強するようになり、適切な指示を出せる傾向になってきた。医師の患者の入浴に対する関心をもっと高めるためにも、入浴介護者は、医師と一緒に事例を検討したりしながら、在宅の対象者を共同でお世話していくパートナーにしてほしいものである。

西洋式浴槽と微温で少なめの湯を使って、短時間で入浴を済ませれば、身体によけいな負担はかからず、事故もほとんど起きないことがこの20年間に証明され、入浴介護事業の普及に拍車がかかってきた。移動入浴車のホースが届かない高層住宅に住み対象者には、湯沸器や浴室の湯を使用して入浴介護をする、といった物理的な工夫もかなりされて、対象者も広がってきた。

安全で・安心できる・快適な入浴介護を提供するには、設備や装置、環境や施設が整っているかどうかがかなり影響する。相違と工夫によって、従来の常識では入浴ができなかった患者が、入浴ができるようになるのである。

そこでさらに期待されるのは、入浴介護者の「技術」である。入浴介護の技術に習熟し、それを高めてゆけば、重度の対象者や感染症の人に対しても「対応できない」ということもなくなっていき、入浴介護の対象者をさらに広げていけるのである。

 

 

西三郎先生の回顧録(6回シリーズ)は、今回で終了させていただき、次回の移動入浴車の誕生と入浴福祉の歩み▶シリーズ第21回

より、デベロが歩んできました入浴福祉の歩みについてご紹介いたします。

 

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訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を把握する

とはもちろん、性格や考え方を理解することは生産性とサービスの質の向上のために大変重要です。

 

 

▶訪問入浴介護とは

 

在宅において、自力で入浴が困難な方を介助し入浴の機会を提供するものです。

入浴車により訪問し、簡易浴槽を居宅に持ち込み、入浴介護に従事する専門スタッフ3名以上がその

サービス実施にあたります。そのうちの1名以上が看護職員であり、入浴サービスの前後にご利用者

の健康観察を行う安全で快適なサービスです。

 

★入浴車による訪問入浴介護サービスは、介護保険制度における在宅サービスの一つです。

 

▼訪問入浴サービスご案内(動画)

 

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