2023.09.25

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み▶シリーズ第19回

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩みでは、1972年の移動入浴車誕生からデベロが歩み続けた入浴福祉研究の歴史をご紹介いたします。

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★医学博士 西三郎先生の回顧録全6回シリーズ【第5回】

第15回からのシリーズ「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」では、1981年日本入浴福祉研究会発足時に研究会を構成している

メンバーで理事を務められた、医学博士の西三郎先生について、全国入浴福祉研修会の講義内容等、全6回シリーズで取り上げており

ます。入浴福祉の広まりにつれ、全国入浴福祉研修会も医療・社会福祉といったより高い専門性が求められていきました。厚生省(現・

厚生労働省)をはじめとし、研究機関、大学などからもご賛同いただき、著名な先生方にご参画をいただきました。西三郎先生は医学

博士、元国立公衆衛生院衛生行政学部衛生行政室長で、1980年に開催されました「第9回全国入浴福祉研修会」より先生の講義が始ま

りました。今回は、全6回シリーズの第5回、1991年(平成3年)9月26・27日に新潟では初めて、新潟県新潟市の郵便貯金会館・メ

ルパルクNIIGATAで開催されました「第26回全国入浴福祉研修会」において、『入浴介護福祉の意味と目的を医師にもしっかり説明

しよう』と題してご講義いただきました内容よりご紹介いたします。

 

▼西 三郎先生  

          

 

第26回全国入浴福祉研修会(平成3年9月26・27日実施 於「郵便貯金会館(新潟県新潟市)」)の医学博士・前東京都立大学教授

西三郎氏の講義「入浴福祉の意味と目的を医師にもしっかり説明しよう」より。

 

 診断あおぐ医師と同じ患者をケアするという姿勢が大切

 

「病気」という言葉に類似したものに「疾病」とか「疾患」がある。意外とこの二つは区別されていないが、「病気」とは正確には、自分で身体のどこかが悪くて、苦しいと感じていることを指す。医学の専門家ではない人が感じたり、判断したりする健康状態のことだ。

これに対し、「疾病」「疾患」とは、医学に基づいて、専門家である医師が診断して定める健康状態の異常をいう。医師は、診断して病名を付け、「疾病」「疾患」を治すわけだ。だから、本人が感じている「病気」を医師が治せないこともあり、逆に、本人や家族が「病気じゃない」といっても、医師からみると「疾病」「疾患」状態にある、と診断することも多い。

介護に携わる者も、本人の意志や自覚症状を大切にすべきなのだが、本人や家族も気づかないうちに身体が悪化していることも少なくない。ガンなどはその代表で、気づいたときには手遅れ、ということもあるわけだ。風邪をひくと、若い人なら熱を出す。しかし、高齢者は熱が出にくく、「ちょっと気分が悪い程度だ」で済ませてしまうこともある。

こうした点がきわめて大切で、対象者の意向を大切にしながらも、対象者や家族が気づいていない変調を察知するのも介護者の役割である。

入浴介護にあたっては、事前に医師の診断をあおぎ、保健婦や看護婦など医療専門家が、その時の体調をチェックするよう取り決めてきたのもそのためである。

入浴は、身体や精神に負担を与える。この負担の程度を上手にすることで、心地好い刺激になるわけだ。しかし、健康な者でも、お酒を飲んだあとや熱があるときは、入浴してはいけない、ということになっている。なぜか。本人が意気軒高であったり、大丈夫だと言っても、すでに身体が異常な状態になっているからである。

これが寝たきりの高齢者となると、もっと注意しなければならない。何らかの疾病・疾患をもっているからだ。40℃をこえるお湯では負担が重過ぎるし、微温浴でも入浴を避けた方がいい人もいる。中止すべき体調の日もある。本人や家族がいくら大丈夫、と言っても、医学的にみて入浴をしてはいけない場合があるため、入浴に際しては、医師の診断をもらい、保健婦・看護婦が観察するわけだ。”医師の診断をもらう”と聞くと、「じゃあ書類を作ってもらえばいいわけか」と即断する人もいるが、これは間違いだ。医師が発行する「診断書」では、あくまで一般状態しか判らず、しかも診断した当日当時の状態でしかない。よく「診断書の有効期限はどれくらいですか」との質問が出る。診断書に有効期限などはなく、その日その時のその対象者の状態を証明しているだけのことともいえる。

入浴にあたって、”医師の診断をもらう”というのは、医学的にみた結果の入浴可否判断をしてもらい、入浴に際しての注意事項などの指示を受けるという意味だ。だから、入浴の当日その時、医師が往診して、その場で入浴可否判断をしてくれれば、診断書などもらう必要はない。

それが一般化するのはまず不可能であるため、入浴に際しての医師の指示を”遠方から”あおぐわけである。医師との関係を、形式や手続き上の問題で処理するのではなく、入浴介護者と共に診てゆく対象者なのだ、という姿勢が重要である。

入浴の当日、現場では保健婦・看護師が、入浴前・入浴中・入浴後の血圧、体温、脈拍、呼吸の状態などを診ることになっている。このときも、形式的に数値だけに頼るのではなく、顔貌や気分の状態、全身を観察し、必要があればその場で、医師の指示をあおぐことが重要である。

しかし、いくら医師だといっても、その対象者を1回ぐらい診察しただけでは、正しい診断や病状の判定・把握は困難だ。対象者に老人保健法で年に1回は訪問健康診査が受けられることも教え、継続した診察を受けるようすすめるべきである。

そうして医師が、入浴対象者の健康状態を把握してくれたからといって、入浴に関しての適切な指示が与えられるとは限らない。ここが大きな問題なわけだ。入浴可否を判断する医学的基準が、確立しているとはいえないし、また、医師の多くは入浴に対する知識が不足しているからである。

そのため、対象者は「入りたい」、介護者は「入れたい」というのに、医師は「入れるな」「そんなこと知らん」といったズレも生じる。こうしたことを解決してゆくには、入浴介護専門家の方から、医師に積極的なアプローチをしてゆくことである。

寝たきりの患者に負担をかけない微温浴で、湯量も少なくした洋式の寝湯であること、入浴時間も短く、ゴシゴシ洗うようなこともしないこと、衛生管理も十分にしていること、など、介護入浴の方法を、しっかりと医師に説明することである。そして、保健婦・看護婦は、対象者が入浴で好転したならもちろんのこと、変化がなくとも、入浴介護の報告を常日頃から医師に報告すべきである。

自分が診察した患者に無関心でいられる医師はまずいないし、入浴介護者が定期的に結果を報告してくれれば、医師も入浴の可否判断力は高まり、いろいろ指示するようになってゆくはずである。そうした指示に対しても、また結果を報告してゆく。その積み重ねが、医療と介護福祉の連携を築いてゆくのである。

 

次回、シリーズ第20回「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」は、1992年(平成4年)9月21日~22日に開催されました「第28回
全国入浴福祉研修会」(秋田県秋田市)において、西三郎先生が、『介護入浴の可否判断ー医師の視点・看護の視点ー』と題しましてご
義いただきました内容よりお伝えいたします。

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訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を把握する

とはもちろん、性格や考え方を理解することは生産性とサービスの質の向上のために大変重要です。

 

 

▶訪問入浴介護とは

 

在宅において、自力で入浴が困難な方を介助し入浴の機会を提供するものです。

入浴車により訪問し、簡易浴槽を居宅に持ち込み、入浴介護に従事する専門スタッフ3名以上がその

サービス実施にあたります。そのうちの1名以上が看護職員であり、入浴サービスの前後にご利用者

の健康観察を行う安全で快適なサービスです。

 

★入浴車による訪問入浴介護サービスは、介護保険制度における在宅サービスの一つです。

 

▼訪問入浴サービスご案内(動画)

 

➡訪問入浴介護のご案内ページへ