2023.08.24

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み▶シリーズ第18回

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩みでは、1972年の移動入浴車誕生からデベロが歩み続けた入浴福祉研究の歴史をご紹介いたします。

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★医学博士 西三郎先生の回顧録全6回シリーズ【第4回】

第15回からのシリーズ「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」では、1981年日本入浴福祉研究会発足時に研究会を構成している

メンバーで理事を務められた、医学博士の西三郎先生について、全国入浴福祉研修会の講義内容等、全6回シリーズで取り上げており

ます。入浴福祉の広まりにつれ、全国入浴福祉研修会も医療・社会福祉といったより高い専門性が求められていきました。厚生省(現・

厚生労働省)をはじめとし、研究機関、大学などからもご賛同いただき、著名な先生方にご参画をいただきました。西三郎先生は医学

博士、元国立公衆衛生院衛生行政学部衛生行政室長で、1980年に開催されました「第9回全国入浴福祉研修会」より先生の講義が始ま

りました。今回は、1989年(平成元年)7月3・4日に北陸では初めて、石川県金沢市の金沢郵便貯金会館で開催されました「第22

回全国入浴福祉研修会」において、『高齢者の身体的特質と介護者の心得』と題してご講義いただきました内容よりご紹介いたします。

 

▼西 三郎先生  

      

 

 

第22回全国入浴福祉研修会(平成元年7月3・4日実施 於「金沢郵便貯金会館(石川県金沢市)」の医学博士・東京都立大学人文学部

(当時)、日本入浴福祉研究会理事の西三郎氏の講義「高齢者の身体的特質と介護者の心得」より。

 

1 不定愁訴を受け止める

高齢になると、われわれの身体にどんな生理的な機能変化が生じるか。いくつかを列記すると、①予備力の減少、②防衛反応の低下、③回復力の低下、④適応力の減退、などが挙げられる。

 若くて健康なうちは私達の身体には、驚くほどの予備力がそなえられている。たとえば腎臓は二つもあり、片方を他人に提供して一個になっても大丈夫だし、その半分でもしっかり生きてゆける。肝臓などは、七分の一になっても支障はないほどだ。しかし、加齢とともにこの予備の力がどんどん減ってゆくのが大きな特徴である。

 また、若いうちは病原菌に負けない抵抗力があり、カゼなどをひいてもちょっと休養すれば治ってしまう体力がある。そして、寒さや暑さにすぐ身体をならすことも可能だ。ところが高齢になると、なんでもないような菌にやられて病気になったり、病気の状態がだらだらと長びいてしまう。急に寒くなったり暑くなったりすると、たちまちダウンしてしまう人も少なくない。

みなさんも、入浴ケアを通して充分に承知していると思うが、こうした加齢による身体の衰えがあるため、対象者はたくさんの病気を併せもっている。よって「何となく調子が悪い」といった不定愁訴が多いはずだ。これも高齢者全般にわたる特質だが、不定愁訴は精神的な不安から発することが多く、心の安定をどのように保たせるかも、介護者の大きな役割だ。

 高齢者は、聴力と視力の障害もあって、介護者との話し合いが難しい面があり、痴呆の人もいて、自分の訴えを説明できなかったり、その内容が修飾されることもある。それだけに、ゆっくりと時間をかけてコミュニケーションすることが必要となる。最近の医者は忙し過ぎるのか、億劫なのか知らないが、、高齢の患者の訴えをじっくり訊かずに、注射を打ってクスリを与えて「はいオシマイ」といった傾向がある。

 こうした風潮に歯止めをかけるためにも、訪問の看護婦は対象者や家族の話をよく聞き、それを手紙などにして、主治医などへ届けるようにしてほしいものである。

2 体温調節機能も低下している

 高齢者の健康を考えるうえで欠かせない知識に、体温調節のことがある。私達の身体は、カエルやヘビのような変温動物と違って、オールシーズン37℃±αの恒常性を保っている。この体温を一定に保持できるのは、脳に体温調節中枢があるためだ。

 脳からの指令によって、私達は寒く感じれば、身体を丸めて体表面積を小さくして熱の発散を防ぐようにしたり、ブルブルと筋肉を震わせて身体を温かく保とうとする。鳥肌が立つのは、体毛をまとっていた時代の名残りである。ヒトが衣類を着るのは、空気を温めて肌を寒さから守ろうとしているわけだ。逆に、暑くなると汗腺を拡げ、そこから水分を出し、その蒸発熱を利用して身体を冷やそうとするのである。

 寒い日や暑い日が続くと、つまり厳冬期や真夏には、寒さや暑さに堪える身体の調整機能が完了するため、面白いことに、真冬に25℃の環境にさらされると、暑くてたまらなくなる。反対に、8月に22℃までクーラーをきかせた室内などは、寒くていられない。これは井戸水に触れても同じ感覚が得られ、夏も冬もその温度は同じなのに、冬は温かく、夏は冷たく感じるのである。

 高齢になると、温度を感受する皮膚のセンサーが減少することもあって、体温反応が低下してしまう。暑くなっても熱を放散できなくなって、うつ熱状態になったり、寒くなると、身体そのものが冷えてしまう、といったことになりかねない。

 また、高齢者は、自律反応と筋肉運動が低下しているため、一般的に体温は低い。37℃が平熱の人もいるが、35℃の高齢者が、37℃になったらこれは大変で、自分と同じくらいの体温だからといって安心してはいけない。そこで、介護対象者の体温もしっかりとカルテに記入し、訪問日の数値は平熱か異常かを、必ず見きわめていただきたい。

 高齢者に高温入浴はいけない、というのは、実はこうした体温調節機能の低下もあるからだ。たとえば40℃の湯に高齢者が入ったとしよう。高齢者は、若者に比べて、皮膚温が40℃になり、毛細血管も40℃になるまで時間はかかるが、温められて血管が拡がってしまうと、その影響は若者以上に大きい。予備力がないのに、そこへどっと血液が流れることになり、内臓や脳へ行く血液が少なくなってしまうからだ。そこで、気分が悪くなり、ひどいときは卒倒しかねなくなるのである。しかも、高齢者は発汗によって皮膚温を下げようとする機能も衰えており、湯からあがっても毛細血管は拡がりっぱなしとなる。36℃から38℃の湯温なら、そうした心配はないので、ぜひ微温浴を守ってほしい。

 最後に、高齢者の水バランスのことにふれておこう。私達の身体は、水で組織されているともいえるほど、水分が非常に多い。高齢になると、水気が抜けてきて、古くなったリンゴのようにシワシワになってしまうのだが、水分が不足し、ノドが渇いていているはずなのに、その感覚が低下しているため、水バランスを崩してしまっている人が少なくない。

 水分が不足すると、血液の濃度が高くなり、血管を流れにくくなる。皮膚をつまんで離しても、なかなか元に戻らないようだと、水分不足と思ってよく、水を補給してやる必要がある。こんなことも頭に入れて、入浴介護にあたってほしいものである。

 

次回、シリーズ第19回「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」は、1991年(平成3年)9月26日~27日に開催されました「第26回
全国浴福祉研修会」(新潟県新潟市)において、西三郎先生が、『入浴介護福祉の意味と目的を医師にもしっかり説明しようと題しま
してご講義いただいた内容よりお伝えさせていただきます。

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訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を把握する

とはもちろん、性格や考え方を理解することは生産性とサービスの質の向上のために大変重要です。

 

 

▶訪問入浴介護とは

 

在宅において、自力で入浴が困難な方を介助し入浴の機会を提供するものです。

入浴車により訪問し、簡易浴槽を居宅に持ち込み、入浴介護に従事する専門スタッフ3名以上がその

サービス実施にあたります。そのうちの1名以上が看護職員であり、入浴サービスの前後にご利用者

の健康観察を行う安全で快適なサービスです。

 

★入浴車による訪問入浴介護サービスは、介護保険制度における在宅サービスの一つです。

 

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