2023.07.20

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み▶シリーズ第17回

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩みでは、1972年の移動入浴車誕生からデベロが歩み続けた入浴福祉研究の歴史をご紹介いたします。

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★医学博士 西三郎先生の回顧録全6回シリーズ【第3回】

第15回からのシリーズ「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」では、1981年日本入浴福祉研究会発足時に研究会を構成している

メンバーで理事を務められた、医学博士の西三郎先生について、全国入浴福祉研修会の講義内容等、全6回シリーズで取り上げており

ます。入浴福祉の広まりにつれ、全国入浴福祉研修会も医療・社会福祉といったより高い専門性が求められていきました。厚生省(現・

厚生労働省)をはじめとし、研究機関、大学などからもご賛同いただき、著名な先生方にご参画をいただきました。西三郎先生は医学

博士、元国立公衆衛生院衛生行政学部衛生行政室長で、1980年に開催されました「第9回全国入浴福祉研修会」より先生の講義が始ま

りました。今回は、1987年(昭和62年)1月28・29日に京都市のホテルニュー京都で開催されました「第17回全国入浴福祉研修会」

において、入浴介護の医学的諸問題と対策をテーマとしてご講義いただきました入浴介護の衛生学より、感染とはどういうことか、

入浴介護の衛生基準等をご紹介いたします。

 

▼西 三郎先生  

 

                        

 

第17回全国入浴福祉研修会(昭和6212829日実施 於「ホテルニュー京都(京都市)」)の医学博士・東京都立大学人文学部教授

(当時)、日本入浴福祉研究会理事の西三郎氏の講義「入浴介護の衛生学」より。 

 

1 感染とはどういうことか

 エイズが大きな問題となり、最近はマスコミ等でも、感染という言葉がよく登場するようになってきました。コレラや天然痘など、病気が人から人へ移ることを、昔は伝染病と言っていました。病原微生物が人体に侵入し、発育、増殖することを感染といい、伝染病も感染による疾病を指しています。そのため、医学的には感染という用語が一般的になっています。

 しかし、病原微生物は、空気中や身の回りにたくさんいますし、それが体の中に入っただけでは発病しません。それが増えて病気になるのです。また、自分の体内にすでに病原微生物を持っている場合もあり、体調を崩したりすると、それがたちまち増殖して病気になったりします。ヘルペスがその代表例でしょう。つまり、病原微生物と身体の抵抗力との関係が、疾病を左右すると言ってもよく、医学ではこの問題が非常に注目されるようになりました。

 病原微生物はどこにでもいるという一方で、読んで字のごとく生き物ですから、減らすことも殺すこともできます。細菌を殺すことを殺菌と呼び、あらゆる微生物を殺してしまうのを滅菌といいます。細菌は一般家庭でも滅菌ガーゼなどを買えるようになりましたが、袋から出してしまえば、滅菌したものか否かなどは判りません。見た目では確認できないのが微生物ですので、なおさら注意を要すわけです。

 浴槽を1回1回滅菌すれば最も衛生的ですが、手間がかかり実際の業務では不可能です。そこで、病原微生物だけは殺しておく消毒という方法がとられるわけです。また、病原微生物を殺しはしないものの、洗い流す洗浄というのもあります。洗浄には意外な効果があり、手も洗い方のコツを身に付けるとかなりきれいになるものです。

2 感染予防の基礎知識

 では、感染の予防はどうすれば可能かです。殺菌、滅菌、消毒など、病原体をなくすこともその一つですし、病原体の侵入する路を遮断することももう一つの方法です。手術にあたって医者は手をよく洗って消毒をし、さらに手術室には細菌灯があり、室内の圧力を高めて外の空気を入りにくくしています。

 病原菌は、皮膚の粘膜や傷口から侵入しますから、傷ができた場合そこをふさぐのは病原体の侵入を防止するためです。介護者が手に傷を負っているときは、介護を休むか、そこを絆創膏等でおおっておかないと、対象者の菌が傷から侵入したり、または傷に増殖した菌を移してしまうこともあるわけです。

 また、病原体が体内に侵入しても感染や発病しないようにすることで感染を予防できます。病原菌が体内に入ればすぐに発病するわけではありません。コレラが入っても身体が健康ならば、胃液の強酸でコレラは死ぬのが一般的です。ところが、体調が弱って胃酸の分泌も少なくなり抵抗力も弱っていると、コレラにやられる、となるわけです。その他の病原微生物でも同じで、疲れていると感じているときはとくに注意して、休養をとったりすることが大切です。

 医学の進歩で人為的に体内に抵抗力を殖え付けてしまうワクチンが、いろいろと開発されてきました。近い将来は、虫歯予防のワクチンも感染するはずです。しかし、エイズに対するワクチンや化膿を防ぐワクチンは、まだありません。ですから、入浴介護に従事する人は床ズレによる化膿を持つ対象者には、十分な配慮が必要です。性病を心配する人もいるようですが、性病の菌は一般的にきわめて弱く、皮膚粘膜の接触がない場合はまず感染は考えられません。

3 入浴介護の衛生基準

 以上の基礎知識をふまえて、寝たきり老人の入浴にあたって守ってほしい衛生基準を次に述べてみます。この基準は、入浴介護を行うすべての人に適用されるもので、常勤者からボランティアかにかかわりません。また、人間には不測の事態が伴うもので、基準とはあくまでこれだけは守ってほしいという、最低のラインであることを知っておいて下さい。

⑴従事者の健康

 入浴介護の従事者は、不特定多数の人に接触する業務に従事する者であり、とくにその対象者に寝たきり老人が含まれていることから、自分が感染源とならないように注意しなければなりません。

 老人の生理的な特徴としては、予備力の減少、防衛反応の低下、回復力の低下、適応力の減退などがあり、若くて健康な人とは病原体に対する反応の仕方が全然違うことを、しっかりと銘記してお必要があります。入浴していいか否かを医師に判断してもらうのは、そのためでもあります。

 入浴可否の診断書を交付したがらなかったり、料金が高い場合もあるようですが、「指示書」というかたちでも必ずもらっておく必要があります。医者の指示がなく、看護婦の独断で介護をして、もし万が一のことが起これば、その看護婦の独断で介護をして、もし万が一のことが起これば、その看護婦さんの責任が重く見られるでしょう。

 また、逆に他人から感染を受けたり浴槽および使用する用具等の汚染により感染することがないよう衛生基準を守らなければなりません。

 感染源となることおよび自分が感染を受けることのないために、個別の感染症に対する固有の対策をすすめるとともに一般的な抵抗力をつけるよう日常の生活において健康に十分注意することが必要です。

 健康診断は、疾病の早期発見とともに自分の健康状態を知るために行うもので、少なくとも年に1回は定期的に受けることが重要です。また、インフルエンザ等の感染症に感染しないように努めなければなりません。

従事者の衛生基準

 入浴介護の従事者は、入浴介護の業務に従事するにあたり、次の3つの衛生基準を遵守しなければなりません。

 ①伝染病の病原になる可能性のある者は、入浴介護に従事してはならない。

 ②入浴介護の従事者は入浴対象者並びに従事者自身の衛生基準を守り、清潔で活動しやすい予防着等を着用し、感染防止に努めなればならない。

 ③入浴介護の従事者は、入浴対象者一人終了するごとに別に定める方法で手指の消毒を行わなければならない。

 以上の衛生基準のそれぞれについて説明しましょう。

 ①伝染病の病原になる可能性のある者は、入浴介護に従事してはならない。

 結核症は、感染しても自覚症がないことが多いことより入浴介護に従事する者は、定期的結核健康診断を受けておくことが必要です。その他の伝染病といわれる疾病は、普通何等かの自覚症がみられることから「具合が悪い」と感じたときには、医師の診断を受ける等によりその原因となる疾病を明らかにしておくことが必要です。感染する危険のある疾病のときには入浴介護に従事してはなりません。

 ②入浴介護の従事者は、入浴対象者並びに従事者自身の衛生基準を守り、清潔で活動しやすい予防着等を着用し、感染防止に努めなればならない。

 入浴対象者は、入浴安全基準により許可された者のみとし、安全基準に定められた方法で入浴を行わなければなりません。とくに入浴許可に条件がつけれらているときには、その条件を遵守しなければなりません。

 入浴対象者の衛生基準は、皮膚の外傷または皮膚が赤く腫れているその他の異常な部位の有無を調べ、皮下組織が露出しまたは感染の危険がある部位には、絆創膏等により皮膚を被い感染を防止します。また、感染源となるおそれのある部位を被覆して、他への感染を防止します。入浴介護従事者は、手指に外傷があるときはあらかじめ被覆する等予防具を用いて感染しないように努めるとともに爪を切り、手を洗い、予防着および帽子等を着用し、入浴者に感染させない注意をしなければなりません。

③入浴介護の従事者は、入浴対象者一人終了するごとに別に定める方法で手指の消毒を行わなければならない。

入浴従事者は、入浴対象者からの感染を防止するため、入浴終了後に、手指を洗浄し消毒しなければなりません。なお、感染の恐れが全くないときには、医師または安全管理者の指示により消毒を省略して洗浄のみでよいこともあります。感染の危険のあったときには、必ず消毒を行い、外傷を受ければ適切な措置を行うとともに必要により医師の診療を受けなければなりません。

従事者の手指の消毒

 従事者が手指の洗浄および消毒を行うのは、感染源となることの防止と自分が感染することの防止のためです。

 手指の爪をあらかじめ切っておいてから手指を洗浄します。洗浄は、手をぬらして石けんをつけ、よく両手で摩擦して泡立たせて、とくに指の間と爪の部分を念入りに洗います。次に手の甲を水道の蛇口の下にさげて汚れを洗い流します。この洗浄を3回繰り返します。感染のおそれのあるときには手洗用ブラシを用いて洗います。

 手指の消毒は、石けんを分を十分に洗い落した後、0.05~0.1逆性石けん(塩化ベンザルコニユム)溶液に浸して30秒以上洗い、滅菌ガーゼあるいは布切で清拭します。その他の消毒薬として0.1~0.5%グルコン酸クロルヘキシジン液を30秒以上用います。手の洗い方や消毒法は、看護婦さんや保健婦さんはマスターしているはずですから、ヘルパーさんはしっかりと消毒してもらうことです。

 切傷、すり傷には、アクリノール液、オキシドール、マーキロクロム等を用います。

⑷用具の消毒および取扱い

 ①浴槽および使用器具の洗浄と消毒

 寝たきり老人の入浴介護に使用する用具は、特定多数の人が使用しますから、浴槽や担架ネットを媒介にして、他の老人へ感染させない配慮も必要です。

 用具は入浴でかなり汚染されますから、終了後は速やかに浴槽の湯を排水し、浴槽内部、担架ネットの表裏両面を石けんを用いてスポンジで十分にこすり洗い、次に湯でよく洗い流します。入浴剤を使用すると、油分も浴槽に付着しますから、よけいていねいに実施すべきでしょう。

 洗浄後、逆性石けん(オスバン・ハイアミン)、クロルヘキシジン(ヒビテン)等で消毒しますが、逆性石けんなら0.2%といった濃度をきちんと守り、使用直前に希釈することです。一般の石けんが混じったり、汚れ物が混入する消毒効果が薄れますから、洗浄用のスポンジと消毒用のスポンジは、はっきり区別することです。また、消毒剤は20℃以上で使った方が効果は高くなります。

 担架ネットは数枚保持し、屋外にて日光のもとで乾燥することが望ましいです。

 ②その他の用具の衛生基準

 その他の用具および使用物品は、入浴対象者一人ごとに使用する専用の物品としては、タオルケット1枚、バスタオル3枚、フェイスタオル3枚、化粧石けん1個、浴用スポンジ1個、洗面器1個等が必要です。

 以上の物品は、入浴者が直接使用するものですから、入浴対象者ごとに各家庭にて用意してもらいます。各家庭で物品を用意させる理由は、入浴に際して他からの感染の恐れのある病原体をそれぞれの家庭に持ち込まないためです。このため、用意させる物品は直接入浴対象者の体に直接触れるものが主な物となります。また、必要によりこれらの物品を貸与してもよいがあらかじめ消毒し、感染源とならない注意が必要です。

 以上の物品は、標準的な入浴対象者のためですから、必要によりそれぞれの家庭での器具、物品を追加して用いてもよいが、入浴を阻害するようなものを含めてはなりません。

 巡回入浴車に常備する物品 ①入浴介護者が使用する石けん、浴用スポンジ、洗面器(2個)、使用前および済みタオルを入れる容器(ふた付プラスチック容器〈大〉)1個 ②逆性石けん液500ml、グルコン酸クロルヘキシジン液100ml、③救急箱1個(内容:略)。

 巡回入浴は、施設内での入浴とは異なり、救急時の対応に遅れが見られたり、器具機材の不足等が見られることから、とくに衛生基準をまもることが重要です。このため、毎回とも初心に戻ったつもりで安全基準、衛生基準を守らなければなりません。

 入浴福祉を発展させるために

 寝たきりになると、生活の幅も狭くなりがちです。1人ひとりの老人の幸せを考えるのが老人福祉ですから、寝たきり老人には寝たきりのなかでの幸せを創ってあげなければなりません。訪問入浴もその一つで、寝たきり老人を幸せにするんだ、という自覚と誇りをもって従事して下さい。

 日本人は入浴好きといわれてますが、それも昔はお風呂はぜい沢なものでした。しかし現在では誰もが毎日にように入っています。寝たきり老人の健康面から考えても、いまの日本に住んでいる人々と同じように、入浴で身体を清潔にしてもらう生活が保障されてしかるべきです。

 そのために行政があり、また住民に健康と幸せをもたらす義務を負っている保健所や医師会があるのです。入浴介護への認識不足が、家族を含めてまだまだあるようですが、様々な人々と寝たきり老人の介護についてコミュニケーションを行い、理解を求めてゆくことが入浴介護者の使命でもあるでしょう。寝たきり老人に生きる意欲を持ってもらうために、地域の住民と一緒になって、健康で幸せな街づくりを進めてほしいものです。

次回、シリーズ第18回「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」は、1989年(平成元年)73日~4日に開催されました「第22回全国

浴福祉研修会」(石川県金沢市)において、西三郎先生が、高齢者の身体的特質と介護者の心得と題しましてご講義いただいた内容

よりお伝えさせていただきます。

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訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を把握する

とはもちろん、性格や考え方を理解することは生産性とサービスの質の向上のために大変重要です。

 

 

▶訪問入浴介護とは

 

在宅において、自力で入浴が困難な方を介助し入浴の機会を提供するものです。

入浴車により訪問し、簡易浴槽を居宅に持ち込み、入浴介護に従事する専門スタッフ3名以上がその

サービス実施にあたります。そのうちの1名以上が看護職員であり、入浴サービスの前後にご利用者

の健康観察を行う安全で快適なサービスです。

 

★入浴車による訪問入浴介護サービスは、介護保険制度における在宅サービスの一つです。

 

▼訪問入浴サービスご案内(動画)

 

➡訪問入浴介護のご案内ページへ