2022.12.20

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み▶シリーズ第10回

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩みでは、1972年の移動入浴車誕生からデベロが歩み続けた入浴福祉研究の歴史をご紹介いたします。

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今回の全国研修会回顧録は、認知症を取り上げたいと思います。日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と

推計され、2025年には約700万人が認知症になると予想されています。

ところで私の祖母は生前認知症を患っていました。祖父が亡くなった後3カ月後ぐらいから何か頭が痛いなどと訴えるようになり、叔父

夫婦と同居しておりましたが、訴えだしてから3年後位に夜中徘徊するようになり施設へ入所しました。2002年のことだったと思います。

当初は私もお見舞いに行っておりましたが、入所後3カ月ぐらには孫である私のこともわからなくなってしまいました。私はとても悲しく

愕然としてしまいました。その後施設でお世話になりましたが、2006年の6月に他界しました。今回ご案内させていただく事例発表は、

2005年2月21日(月)と22日(火)の2日間にわたって開催された第40回全国入浴福祉研修会(水戸市で開催)から、茨城県大子町の久慈

川荘介護センター訪問入浴介護事業所の菊池オペレーターの発表です。この事例のご利用者様の身体状況は、腰椎圧迫骨折後遺症で下肢伸

展に制限があり、側臥位で就床状態。認知症(痴呆症)の諸症状もみられたとのことです。

(現在久慈川荘様は訪問入浴介護事業を行っておりません。)

 

§高齢化率33%!広い大子町で…

特別養護老人ホーム久慈川荘は、昭和61年に開設され、平成6年から併設のデイサービスセンターが訪問入浴介護事業を始めました。平成12年には、介護保険制度への移行に合わせて、「久慈川荘介護センター訪問入浴介護事業所」となり、現在では、専従3名、兼務3名のスタッフが、過去3カ月平均で年間1374人の訪問入浴介護を提供しています。当事業所がある大子町は、茨城県の北部、福島と栃木の両県境に位置し、面積は326平方キロメートル、総人口は2万3189人です。うち65歳以上が7603人で、高齢化率は32.8%に達する広大な過疎高齢化の町です。要介護認定者は967人。要介護率は12.4%。内訳は在宅が784人、施設が183人となっています。訪問入浴介護の利用者はさまざまですが、「自宅で生をまっとうしたい」というある重度の要介護高齢者に対して、スタッフや介護専門員が連携し協力しながら訪問入浴介護に取り組むなかで、あらためて〔ターミナルケアと入浴介護〕の重要性を再認識させたらた事例を紹介することにいたします。

§ケアマネから強い要請があり

Aさん(86歳の女性)が、訪問入浴介護を受ける契機となったのは、平成15年8月のことでした。車で片道40分もかかる私たちの事業圏外の隣村のケアマネジャーから、Aさんの身体状況ほかの説明と訪問入浴介護の依頼があったのです。隣村には、訪問入浴介護事業所がないのです。(中略)そこで、片道40分もかかる隣村のAさん宅を訪問することになりましたが、時間の無駄を省いた結果、Aさん宅を訪問する日でも、1日わずか30分の勤務時間が増えるだけで済みました。こうしてAさんの訪問入浴介護が平成15年9月から始まりました。

§医師と連携して最後の入浴も

Aさんは、娘さん家族と同居していて、主たる介護者はその娘さんです。私たちの初回訪問時には、要介護5のように見受けられましたが、当初は要介護4の認定でした。やはり、その後の平成16年9月に、要介護5に変更となりました。身体状況は、腰椎圧迫骨折後遺症で下肢伸展に制限があり、側臥位で就床状態。認知症(痴呆症)の諸症状もみられたものの、一般的な会話は可能でした。Aさんは入所していた老健施設で全身状態が悪化してしまった、という経緯があります。そのためもあり、自宅で親を看取りたい、との強い願いから家族はAさんを退所させました。とはいえ、自宅での介護は家族にたいへんな負担となります。ヘルパー2名による自宅浴室での入浴介助ほかの介護サービスを受けてきましたが、ヘルパーによる浴室介助も思うようにならず、訪問入浴介護の利用となったわけです。開始するにあたって主治医からは、「入浴は、血圧90以下や160以上、体温は37℃以上で不可。気になる場合は、その場で私に連絡を」との頼もしい指示を受けました。初回入浴時のAさんの状態はけっして良いとはいえませんでしたが、ケアマネジャーも見守るなかで順調に入浴介護を終えました。(中略)翌年12月下旬にも、血圧が98と60で、体温は37.3℃もあり、眠っている状態で衰体感も顕著でした。しかし、再びご家族の強い希望があり、やはり主治医と連絡をとって入浴を実施しました。この時が最後の入浴となり、Aさんは翌年1月の初め、ご家族に看取られて、希望どおり自宅で静かに息をひきとりました。

§回想法でコミュニケーション

Aさんは訪問入浴介護を利用し始めた当初、緊張状態で被害妄想的な言動もあり、スタッフとの意思疎通がうまくいきませんでした。身体的には下肢の拘縮が強いため、入浴時の感想を本人から聴きたかったのですが、なかなか打ち解けてくれませんでした。いろいろと考えた末、私たちは「回想法」を試してみたのです。Aさんの思い出や、Aさんの回りで起きた昔話を、対話のなかに取り入れるよう心がけました。これを根気よく1カ月ほど続けましたら、Aさんの表情は和らぎ、スタッフとの会話にも慣れてきました。しかし、メンバーが代わると、また元の状態に戻ってしまいます。Aさんとのコミュニケーションは、回想法を活用することをスタッフの共通認識としえ徹底していたつもりでしたが、どうもうまくいきません。(中略)そこで、Aさんに関わるスタッフ全員が、回想法を盛り込みながら接することと、Aさん用の手順を徹底するようにしました。すると、たちまち効果があらわれ、落ち着いて入浴するようになり、「ありがとう」との言葉も、自然に出てくるようになりました。

§『介護ノート』で情報を共有

Aさんの入浴では、39℃の湯温に調整しましたが、「熱い」と言ったり、「ぬるい」と訴えたり、その日によって異なりました。しかし、「熱い」と言う場合は、水を加える仕草をしますと納得するのです。10月末ごろから褥瘡が悪化傾向となり、刺激を避ける入浴方法も検討する必要が生じました。湯温を下げ、タンカネットにあまり触れないよう、身体の負担部分を浮かせるため、スタッフが腕で抱えるようにして、洗う時も手で優しくさするように心がけました。褥瘡の処置は、浴槽からあがる前に患部を覆っていたマルチフィックスを慎重に剥がしてシャワーで丁寧に洗浄したのち、患部をタオルで保護。静かにベッドに移動してから、主治医の指示に従った処置を行いました。Aさんのような事例は、主治医をはじめ、訪問介護や訪問看護との連携なくして質の高いサービスを提供するのは不可能です。この点、Aさん宅に常備している介護ノートが威力を発揮してくれました。主治医をはじめ、介護と看護のスタッフも、訪問して観察した結果や提供したサービス内容などを、必ずノートに記入するため、情報が共有できたのです。先に述べましたように、Aさんの入浴は当初の週1回から、短期間にご希望の週2回に増やしました。それができたのも、業務の徹底的な見直しの結果でした。Aさんが亡くなれたいまでも、私たちは1台の入浴車で広い町の各地に住む44名のご利用者を、ご希望の曜日や時間に合わせて定期的に訪問し続けながら、引き続き隣の村からのご希望にも応えています。1分1秒の時間を細かく調整して無駄を省く工夫をするようになったのも、Aさんとご家族、そしてAさんを担当していたケアマネジャーのお陰です。Aさんと関われたことで、実に多くのことを学ぶことができました。とりわけ、ご利用者本位と質の向上に関しては貴重な体験をしました。Aさんにとても感謝しています。

 

資料:入浴福祉研究第40号 2005年(平成17年)6月15日発行 掲載記事p.26-29より引用・抜粋

 

さて、訪問入浴介護の認知症のご利用者で、入浴サービスの日に伺うと、更衣や入浴の声掛け時に背を向けらえた経験がある方もいらっ

しゃるかと存じます。デベロ老人福祉研究所が令和3年度に実施しました老人保健健康増進等事業「訪問入浴介護の実態に関する調査研究

事業」のアンケート調査において、『これまでにサービス提供実施において苦労した例』の設問においては、『認知症(BPSDなど)』と

回答(複数回答)した事業所が935事業所のうち464事業所と49.6%を占め、約半数にのぼりました。また、令和元年の国民生活基礎調査

から要介護状態となった原因について調べましたところ、要介護4、5ともに「認知症」が第2位と、第1位の「脳血管疾患」の次に多い結

果となっております。

デベロ老人福祉研究所では、2013年4月1日に訪問入浴介護の実践マニュアル「高齢者のからだのしくみとお風呂の効果編」を発刊してお

り、『認知症』について解説しております。

訪問入浴介護に従事する皆様のご活躍をお祈り申し上げます。

 

 

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訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を把握する

とはもちろん、性格や考え方を理解することは生産性とサービスの質の向上のために大変重要です。

 

 

▶訪問入浴介護とは

 

在宅において、自力で入浴が困難な方を介助し入浴の機会を提供するものです。

入浴車により訪問し、簡易浴槽を居宅に持ち込み、入浴介護に従事する専門スタッフ3名以上がその

サービス実施にあたります。そのうちの1名以上が看護職員であり、入浴サービスの前後にご利用者

の健康観察を行う安全で快適なサービスです。

 

★入浴車による訪問入浴介護サービスは、介護保険制度における在宅サービスの一つです。

 

▼訪問入浴サービスご案内(動画)

 

➡訪問入浴介護のご案内ページへ