2024.05.28

◇実践事例特集◇地域包括ケア実践事例:入浴介護に関連した体調不良・事故発生と入浴前血圧、体温との関連~症例対象研究から~

【実践事例特集】では、デベロ老人福祉研究所がこれまでの研修活動で発表された事例等を基に、改めて

    訪問入浴介護と照らし合わせてご紹介します。

                                                                 

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2016年(平成28年)3月26日(土)に開催しました第52回全国入浴福祉研修会の全体講演におきまして、「入浴

介護に関連した体調不良・事故発生と入浴前血圧、体温との関連~症例対象研究から~」と題し、日本入浴福祉研

究会理事、東京都市大学人間科学部教授の早坂信哉氏にご登壇いただきました。今回はご講演内容よりご紹介させ

ていただきます。

 

 今回、全国の2,330カ所の訪問入浴介護を行っている事業所に対しまして、調査票を送らせていただきました。訪問入浴介護に関連する事故と体調不良があったことを、全部報告してくださいというものです。もう一方は、ただ事故の事例だけ集めても比較が出来ませんので、何も問題のなかった人も教えてくださいということで、入浴に関して体調が悪く事故が起こったという人と、無事に終了したという人を集めたことになります。それらの入浴事故があった人となかった人を比較して、何が原因になっているのかを調査した初めての研究ということになります。

 今回のアンケートが沢山の項目を聞いているのですが、最初に示すべきことは、やはり現場で一番困っている血圧と体温についてです。今回はその部分について、データを解析したということになります。ただこの研究の着手に当たっての経験としましては、基本的になるべく利用者にはお風呂に入っていただきたい、安全に入っていただきたいという気持ちが一番です。

 今回示した数値が統一されて、入浴を制限するとかそういったものではないというように思っております。ただ一方で何もないところで手探りで入浴していい、悪いという判断をするのはなかなか困難を伴うもので、制限するものではないのですが一つの参考いしていただきたい数値であるわけです。

 結果についてはいわゆる収縮期血圧が、入浴前に測って160㎜Hg以上ある場合だと、何らかの入浴事故の発生の関連が3.63倍でであります。何と比較して3.63倍なのかといいますと、収縮期血圧が101㎜Hgから129㎜Hgというのがいわゆる正常な血圧と言われているのですが、この血圧と比較してこの人が事故を起こすリスクが1とした場合、収縮期血圧が160~179㎜Hgの人はリスクが3.63であるということがわかったということになります。これが180㎜Hgを超えますと少し高くなるわけですが、159㎜Hgあたりまではあまりリスクが大幅に増えるわけではないということがわかります。160㎜Hgあたりから、リスクが右肩上がりにぐっと増えていくことがわかります。

 当然下の血圧がいわゆる拡張期血圧というものですが、これも100㎜Hg以上である場合は、このリスクは14.71倍になることが分かりました。どうやら収縮期血圧が160㎜Hg。拡張期血圧が100㎜Hgを超えてくると何等かのトラブルになりやすいというのが、今回の研究で分かったということになります。

 また発熱ですが、こちらも37.5度以上になりますと、何らかの事故との関連が16.47倍になってきます。かなり高い割合になってくるということになります。16.47倍これは何の数値かと言いますと、例えば収縮期が160~179㎜Hgの場合のリスクの関連を示す倍率ということになります。オッズ比ということになるのですが、統計学的な関連の強さを示す指標ということになります。1が基準になりまして、2倍3倍4倍と数値が大きいほど、その関連が強いということを示す統計学的な用語になります。逆にこれが0点いくつかだとどうなのかということですが、たとえば0.5倍というとリスクは半分だということになります。厳密に言うと難しいのですが、数値が上がっていくとリスクが増えていくのだと捉えていただければいいと思います。

 次に入浴事故として報告されたものは聞いているわけですが、今回の場合は何を入浴事故と定義したのかは、まず症状としては発熱が最も多い。それから呼吸困難、喀痰、意識障害、嘔吐、吐き気ということです。そのほかには外傷、血圧の上昇・血圧の低下、チアノーゼこういったものが多かったということになります。

 これらをまとめると、今までなかなか血圧と体温値を統計学的に示すことがなかったのですが、ある意味介護者の経験ないしは主治医の経験によって判断していたわけで、今回沢山の事例を集めることによって、一定の数値を示すことができたと考えております。これは訪問入浴介護だけではなく通所介護、デイサービス、デイケアにおいても、さらには高齢者の家庭の入浴だとか、温泉の入浴に用いられても当然参考になる結果と考えております。当結果については、絶対的な基準ではないというように考えております。人によっては多少血圧が高くても何も問題なく、入浴を終了することも当然あるわけで最終的には個別に判断されるべきであろうと思います。

 皆さんは実際に現場で訪問入浴介護に従事されているということですので、少し細かく研究結果を見てまいりたいと思います。私が訪問入浴介護など入浴に関係する研究に着手したのは、随分前ではありますが、最初は実態がよく分からなかったのです。例えば入浴でどんな事故が起こっているのか訪問入浴介護、デイサービス、デイケアも含めてですがどのような事故が起こっているのか分からないということから研究をスタートしたわけです。実際に皆さん現場でどう判断しているのかも、分からないという状況が最初でした。

 以前の調査によりますと、89%の人が入浴可否判断で困難を感じているということが、最初の調査研究で分かってきました。実際に86%の人が具体的な入浴可否判断の基準値が必要ということを言っていたことが分かりましたので、医師が困っているのと同様に介護現場では皆さんのほぼ9割が、お風呂に入れていいか悪いかで困っていると感じたことがあるとお答えいただいており、しかも具体的な基準が欲しいとお答えいただいた人が86%、やはりこれば研究すべき内容なのだろうと確信し、その後も研究を続けたわけです。これまでは医師の側もこれに対してしっかりとお答えできる調査研究というのはなかったということですから、今回こういったものを示すことによって、現場の判断の一つの参考になると考えたわけです。

 どのようにこの調査研究を行ったかというと2012年に介護サービス情報の公表制度がありWeb上に皆さんの事業所が公的なデータベースとして載っています。そこに載っていた2,330カ所のすべての事業所に、調査票を送付しました。

 内容については、まず皆さんの事業所が実際に何件の訪問入浴介護をされているのか職員は何人いるのか、そういった事業所の基本的な情報の他に、体調不良とか入浴関連事故というものが起こった場合などの調査票をお送りしました。それに合わせて何も問題なく終わった人ということについても、教えてくださいということで送付しました。

 どういった人を入浴事故事例にしたかと申しますと、基本的には皆さんのように現場の人がこればお風呂に関連した事故ではないかと思えたものは、すべて挙げていただくということになっています。入浴前に怪我をすることもあるわけですが、入浴の動作に関連したものであれば報告していただき、入浴中に発生した体調異常というのはなかなか現場では判断しにくいものもあるかと思うので、すべて教えてくださいとお知らせしています。入浴後24時間以内に発生した体調不良も含んでおります。

 皆さんから自由記載で書いていただき、その時の実際の血圧とか体温なども含めて、詳しく状況を聞いています。一方、何もなく終わった人も各事業所から2名ずつ教えていただくわかですが、あまり恣意的に人が選ばれてしまうと研究の客観性に欠けてきますので、具体的には介護者の被保険者番号の末尾が一桁の1である人を選ぶという、事業所の意図がなるべく入らない形で問題なく終了した事例を教えていただきました。解析方法は数多くの自由記載を研究者で分け、20数項目をカテゴリー化したということになります。調査した内容の項目とは異常症例と対照群の比較ですが、当然年齢と性別は聞いているのですが、寝たきりの要介護度、意識レベル、認知症患者の自立度、入浴前の血圧、体温、こういったものを聞いているということになります。元気で入浴が終わった人と、何らかの事故と体調不良を起こした人を比較する、こういったことを行いどちらがどうなのかを比較したということになるわけです。

 結果は2,330カ所の内、回答いただきましたのは940カ所になります。一部の事業所で154カ所は回答を得られなかったのですが、回収率は43%でした。たくさんの症例を、お寄せいただいたということになります。結果としては何らかの入浴関連事故があったというのが596例。それに対して、何も問題なく終了した人が1,511件でした。比較は596例と1,511例を比較したということで、数の多い統計的な調査を行ったということになります。どうしても不詳といって詳細を書いてもらえない事例もあり、こういうこともやむを得ないかと思いました。

 どのような人たちが今回の調査の対象になったのか、事故事例の平均年齢が82.3歳、元気で終わった人が81.8歳で高齢な人になります。男性が231例、女性が299例で、女性に対して男性が43.6%です。入浴前の上の血圧、下の血圧、入浴前の体温、自立度、要支援1、要介護1・2・3・4・5とあり、事故事例が要介護5ではどのくらいかというと55.7%です。あとは意識レベルで1・2・3とありますが3だとほとんど昏睡状態で、呼んでも答えないというレベルです。

 今回の研究で一番大事な点は、血圧と体温がどれだけリスクになっているかということです。そこをまずしっかり見ていきたいということになるわけですが、その部分につきましては事故事例の解析をしています。発熱が多かったと報告してくれた事例が100例で一番多かったのですが血圧が上がった、血圧が下がってしまったなど、体調不良の報告が非常に多かったのです。

 現場の皆さんが一番知りたい項目だけに着目して解析しました。男性が769名、女性が1,099名です。オッズ比というのがリスクを示し、数字が1より小さいとリスクが小さくなり1より大きいと、リスクが上がっていくと考えていただければと思います。例えば男女で、男性がリスクなのか女性がリスクなのかを比べた場合になります。男性を1とした場合、女性のリスクは0.96になります。ほとんど差はないということです。男性だから事故が多いとか、女性だから事故が多いということはないのです。また10歳年齢が上がるとリスクがとのくらい上がるかというと、1.02ということになり年齢が上がるからリスクが高くなるわけではないことがわかります。例えば収縮期血圧が101~129㎜Hgのオッズ比がありますが、これば単純に血圧と事故のリスクを見ているだけということになります。血圧というのは年齢が上がると上昇します。そのために年齢も考慮しなくてはならないという指摘を受けますので、年齢その他諸々を考慮したものが一番重要になってくるということになります。年齢による影響とか、そういったものを全部まとめて血圧の影響はどうなのかということを見たということになります。

 例えば上の血圧が101~129㎜Hgで1なのですが、180㎜Hgを超えるとオッズ比が4.62ということになります。下の血圧を見ますと64~84㎜Hgを1とした場合、血圧が上がってくと85~89㎜Hgは1.41、90~99㎜Hgが1.31、突然100㎜Hgになると14.71と急激に高くなることが分かります。体温も同じように見るのですが、36~36.9度を1とした場合、37~37.4度は1.55、37.5~37.9度は16.47とリスクはぐっと上がるということです。このように、上の血圧は160㎜Hgを超えると3.63、180㎜Hgを超えると4.62、下の血圧は100㎜Hgを超えると14.71ということで、リスクが増えてくるということが分かってきたことになります。

 結論としてどうやら血圧が高い、体温が高いとリスクになっていくだろうということが分かってきたわけです。この数値につきましてはあくまでも参考にしていただきたいということで、これが絶対的なものではないという考え方になっています。中には血圧が高くて、どうしてもお風呂に入りたいという人もいると思います。それを決して否定するのではないのですが、いま医療の業界においては、必ずインフォームドコンセントというものが行われています。例えば胃カメラ一つにしても、必ず事前に説明してから本人のサインをもらって、初めて胃カメラの検査を受けるというのが、医療業界は当たり前になっています。おそらく皆さんも、健診などで胃カメラを受ける時にはそういった説明があると思います。

 当然訪問入浴介護サービスについても、全員そういう必要はないと思いますが、例えば収縮期血圧が180㎜Hgを超えてもお風呂に入りたいという事例は当然出てきます。その際にリスクが伴いますということをぜひ説明して了解した上で入っていただく、そのための根拠に使っていただければと思います。例えば収縮期血圧が160㎜Hgあり入りたいという時、リスクは3.63倍ですよということになります。それをご家族にも分かっていただいた上で入っていただく分にはいいかなと思いますが、これまでのように何となく悪そうだからとか、何となく事故が起きそうというのではなく、もし可能であればしっかりした根拠があるということをご理解いただいた上で、安全な入浴の参考にしていただければと思っております。

 これが皆さんの業務を一律で規制するとか、そういった性質のものではありませんのでデータを上手く使っていただき、安全に訪問入浴介護を進めていただければと思っております。

 

※出典:

入浴福祉研究第50号(2016年(平成28年)6月30日発行 編集・発行所:デベロ老人福祉研究所/日本入浴福祉研究会事務局

 

 

➡調査結果データダウンロード

調査結果をデータでご覧いただく場合は、上記PDFファイルをダウンロードの上、ご参照ください。

 

 

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訪問入浴介護のサービス時には、事前にバイタルチェックを行います。以下にバイタルサイン測定時の注意点を掲載

しますので、お役立てください。

 

出典;老年看護ぜんぶガイド 八島 妙子著(株)照林社 (P.112より引用)

 

▲出典:訪問入浴介護の実践マニュアル「高齢者のからだのしくみとお風呂の効果編」株式会社デベロ

 

▲出典:訪問入浴介護の実践マニュアル「高齢者のからだのしくみとお風呂の効果編」株式会社デベロ

 

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訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を

把握することはもちろん、性格や考え方を理解することは生産性とサービスの質の向上のために大変重要です。

 

 

▼訪問入浴サービスご案内(動画)

 

➡訪問入浴介護のご案内ページへ

 

 

『入浴』と『看護・介護』の力の集結!!訪問入浴介護サービスの力

訪問入浴介護のサービス提供時には、入浴介助に伴って様々な『付帯的なサービス』が行われています。

 

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身体介護の側面
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寝たきりである利用者への清潔な下着や着衣の交換はもちろんのこと、「スキンケア」や「体位の交換」といったご家族への適切なアドバイスも。

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入浴中は温熱作用、浮力・粘性作用により関節も動きやすくなりますので、状況によりマッサージなどを行う場合もあります。

 

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入浴で清潔の保持はもちろんですが、洗顔、ひげそり(電気シェーバーにて)や爪切り(疾患のない爪)など、全身の整容を考えてサービスが実施されます。

 


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