2023.05.29

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み▶シリーズ第15回

移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩みでは、1972年の移動入浴車誕生からデベロが歩み続けた入浴福祉研究の歴史をご紹介いたします。

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★医学博士 西三郎先生の回顧録全6回シリーズ【第1回】

第15回からのシリーズ「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」では、1981年日本入浴福祉研究会発足時に研究会を構成しているメン

バーで理事を務められた、医学博士の西三郎先生について、全国入浴福祉研修会の講義内容等、全6回シリーズで取り上げます。

入浴福祉の広まりにつれ、全国入浴福祉研修会も医療・社会福祉といったより高い専門性が求められていきました。厚生省(現・厚生労

働省)をはじめとし、研究機関、大学などからもご賛同いただき、著名な先生方にご参画をいただきました。

西三郎先生は医学博士、元国立公衆衛生院衛生行政学部衛生行政室長で、1980年に開催されました「第9回全国入浴福祉研修会」より先

生の講義が始まりました。今回はその時の講義内容「移動入浴の基本衛生」についてご紹介いたします。

 

▼西 三郎先生の講演                                                                                           ▼第9回全国入浴福祉研修会 講演会風景  

       

                        ▲第9回全国入浴福祉研修会 開催風景 

           

    

第9回全国入浴福祉研修会(昭和5552728日実施 於「茨城県産業会館」(茨城県水戸市))の医学博士・元厚生技官、元国立公衆衛生院衛生行政学部衛生行政室長、西三郎氏の講義「移動入浴の基本衛生」から抜粋。

 

1 健康な人なら発病しない菌が・・・

衛生には、健康を増進させる働きと悪化防止という二つの意味があります。食べ物を摂れば栄養が吸収されますが、その一方で食中毒を起こす危険もあるわけです。ですから、食中毒にならないよう、衛生に注意しなければなりません。入浴もこれと同じです。健康が回復する一方で、病気が進行し、悪化する場合もあります。

特に、老人は生理的機能が衰えていますから、生理的な負担、負荷を少なくして入浴させなければなりません。低温、短時間、体をゴシゴシ洗わない入浴が大切です。もう一つは、悪い細菌が付かないよう、感染防止に配慮することも大切です。

感染を考える場合、よく梅毒、コレラ、腸チフスなどが話題になりますが、それよりも、もっと日常的な防止が必要であることをぜひ頭に入れて下さい。確かに、いまの老人は若い時、華やかな時代を過ごしましたので梅毒にかかった人が多いのは事実です。治療してもプラスに出る老人も中にはいますが、まず治療経験をチェックして、きちんと処置していればほとんど問題はありません。コレラ菌は東南アジアから持ち帰って問題になるわけですし、赤痢も流行すれば明らかにされますので、皆さんが考えているほど危険は無いと思っていいでしょう。

では、何が問題か、ですが、入浴することで下半身を漬けることです。皆さんが、トイレに入って、大便を拭く。2、3枚のチリ紙では大便とそこに含まれている菌が通ります。そこで石鹸で洗います。しか固形石鹸ですと、前の人の菌が石鹸に付いていますから、よほどゴシゴシ洗わないときれいになりません。普通の健康な人なら、手に細菌が付いて、それが体の中に入っても胃酸が殺してくれますから、コレラ菌でも大丈夫です。

しかし、栄養が十分でなかったり、疲れ過ぎていると発病します。お年寄りもこれと同じで、お尻のまわりについている菌が湯船に拡散して皮膚に付いたり、体の中に入って病気を起こすことがあるわけです。これを「日和見感染」といいまして、健康な人にとって何でもない菌が体が弱っているために感染して病気になる。老人入浴はこれを注意しないといけないのです。

病院で赤ちゃんがブドウ球菌によって皮膚にブツブツが出る病気が流行したことがありました。こうした感染は、老人も考えらえるわけで、自分の便で皮膚病になったり、前に入浴した人の菌が浴槽に付いていて、それがうつったりする可能性があるわけです。どこで、どう感染するのか、なかなかわかりませんので、衛生的な処置を十分しておく必要があります。

ただし、「日和見感染」の菌を完全に無くすことはできません。お湯に消毒液を混ぜたら皮膚かぶれの原因になりますし、できることは、オムツの交換時に、できるだけきれいに拭いてあげることです。銭湯へ行って湯船に入る前は、陰部や尻部を石鹸でよく洗ってから入りなさい、と我々が教えられたように、日常生活の中で、寝たきり老人をきれいにしておく心構えが大切です。

もう一つは、体にできものがあって、その菌が入浴で広がることもあります。医師の診断や許可が基本的には必要だ、とするのもこういう点もあるからです。

 

2 浴槽をできるだけゴシゴシ洗う

もう一つ重要なのは、入浴させた後の浴槽の処置です。前の人の菌が、次の人を入浴させる時、あってはならないのが原則でしょう。消毒、消毒と言っていますが、厳密に区別すると、次の三つになります。

一つは、「滅菌」です。これは、菌を含めたすべての微生物を殺し、そして除去することです。二つ目は「殺菌」があります。菌を活力のないように殺すことですが、その”死体”は除去されていない状態です。三番目は「消毒」は、病原微生物を殺すことを意味します。ですから、消毒だけでは日和見感染は防げません。普通の人ならなんでもない菌は殺せても、老人にとって害になる菌が存在する可能性もあるからです。

また、微生物にも弱い者と強い者があって、一番弱いのが性病の菌だといわれています。性行為をしなければうつらない菌で、だから性病というわけです。強い菌は、自分の都合が悪いとカプセルの中にかぶって、また時機を待つという者もあり、これなどは滅菌が容易ではありません。それに、生物というのは面白いもので、滅菌しても一度には死なないという特徴を持っています。

2分半殺し続けても1割は残る。さらに2分半続けていても、その1割が残るという具合で、たとえば1万個の菌を10分間かけて殺し続けても、まだ1個残ってしまいます。これが再び、数を増やしてくわけです。ですから、消毒剤を使えば安全だということにはなりません。皆さんが使っている逆性石鹸はヒビテン、それにオスバン液などでも殺せない菌があります。

ですから、消毒剤を使う前に、菌をできるだけ減らしておく必要があるのです。そのためには、手術時に使うブラシなどで、ゴシゴシ擦って洗い流すことです。とにかく、ゴシゴシ擦る。そして、菌を少しでも減らして消毒にかかる。これが大切です。それに、消毒剤は、温度が10℃高ければ効果が2倍か3倍になることを知っておいてください。少なくとも20℃ぐらいで使ってほしいものです。体を普通の石鹸で洗い、あとの消毒に逆性石鹸を使う人もいるようですが、普通の石鹸の成分が浴槽に残存して逆性石鹸の効果が低下しますので、これは避けて下さい。消毒後、日光の効用も利用したいところです。

いま問題になっているA型肝炎、B型肝炎のウイルスですが、A型なら普通の洗い方で十分ですし、少量の血液でも感染するとされるB型も、菌そのものは弱い方だと言われていますので、よく洗えば防止できるでしょう。いずれにしましても菌をゼロにすることは不可能ですが、よく洗い流すことを鉄則にして欲しいものです。

最後に、医師の協力について少し考えています。私は、入浴の衛生面から原則的には医師の判断をあおぐべきだと考えています。

 

資料:第9回全国入浴福祉研修会報告書 昭和55年5月27・28日実施 掲載記事p.24~27より引用・抜粋

 

 

次回、シリーズ第16回「移動入浴車誕生と入浴福祉研究の歩み」は、西三郎先生のプロフィールや国立公衆衛生院、西先生の著書のご

案内や、「公衆衛生」、日本入浴福祉研究会等についてもふれていきたいと思います。

 

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訪問入浴介護は、3人(看護師、オペレーター、ヘルパー)1組で入浴介護を行うチームケアです。お互いの職種を把握する

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